本屋でぐうぜん見つけたファンタジィ。
話はおもしろかった。
でも。
【皇女アルスルと角の王】のあらすじ
人外、と呼ばれる優れた能力をもつ獣と普通の獣が人間とともに、あるいは人間と対峙しながら生きる世界。
それぞれの大陸にそれぞれの人種がおり「第五合衆大陸は皇帝のもとで国が繁栄している」設定になっている。
「レディ・がっかり」とひそかにあだ名されている第三皇女が主人公。
人間とともに暮らす人外は「使役動物」なわけで、フェロモン・キャンディをもらいながらよくしつけられている。
でも人間世界に災厄をもたらすほど強力な人外もいる。
ある日偶然にも皇帝の暗殺現場に出くわしてしまった第三皇女は皇帝殺しの容疑をかけられ死刑宣告を受ける。
実は第五合衆大陸の国は、人外によって繁栄を築いてきたという理由があった。
だから第三皇女の処遇も、人外とのかかわりが中心の展開となる。
王道に近いファンタジィだ
魅力ある登場人物もいて、話の流れはおもしろかった。
自分の無意識がさらけ出され見透かされる
ファンタジィに限らないけど、小説は話の世界をどのように創り上げているかを読む人間に問われる。
思想や宗教のあつかい、舞台となる世界の生態系をどう構築するか、登場する人間の関係性、経済活動のしくみ、などね。
自分の書く小説だから好きに設定していい。
けれど、言葉にして書いてなくても「この作家はこんなことまで考えているのかな」という揺らぎや違和感がはさまることがある。
さとうは、この話にかぎってのことだけど「人外」という言葉の使い方はこれでよかったの?という違和感をもった。
もちろん、人間を超える「人間じゃない獣」をあらわすために作家が考えぬいてえらんだ言葉づかいなんだろう。
まさかペットとか家畜とか言えないもんね
ただ、そこに「畏れおおい」や「偉大な存在である」や「怖くて近寄りたくない」感じはなくて。
この小説・ファンタジィ世界におけるちょっと特殊なキャラ、って受け取ってしまった。
さとうの受け取りかたがヘタクソだったんだろう。
片方で「災厄級の害獣」もう片方で「人間によりそい人間のためのはたらくことを命じられる存在」って。
存在が多様すぎてイメージが掴めなかったんだ。
ファンタジィには「魔法」のように便利な設定がある。
けれど物語を進めるとき「どこまで深く厳密に考えているのか」が、表現や設定や話の進めかたに出てくる。
今ふうに言うならどれだけ「緻密」で「エモい」書きかたができているか、を見られている。
モノを書く行為はどのくらい教養があるのかを読者に見透かされる恐怖がある。
さとうも教養はそんなに深くない
見透かされる部分って自分でも意識してなかった部分だったりするんだ。
「人外」という存在は悪くない。
便利なキャラあつかいに見てしまったさとうが勝手にもやっとしていた。
これは人によってちがう。うまく言えないけどたくさん読んできたからなんとなく感じるの
書く人も読む人も、自分の頭のなかのいろいろなものを自身に対してさらけ出すハメになる。
あとね、使役動物だからしかたがないって言えばしかたがないんだけど。
「命とひきかえにしても(皇女を)守れ」とか、亡くなってしまった人外に「ようやった。わしの息子はケルビー犬の誇り!」とか言わせているのも、なんとなく違和感だった。
やむをえず死にいたる展開というのが物語には避けられないとしても、こうもあっさりとステレオタイプな発言をされると………「え?昭和のドラマですか?」って感じがして、ちょっとヒク。
第三皇女が主人公の話、でもウラの主人公は人外じゃないの?
その存在にどれくらい思い入れがあるのかな。
さとうがこの本を読んだ理由
さとうはどこへ出かけても、時間がゆるせば本のおいてあるコーナーをながめる。
たいして冊数をおいてなさそうなコーナーでも、いちおうチラッと確認する。
なぜか。
だっていかにも残りもののようにおいてあるけど、そのなかに、探していた本とか思いがけなく良い本があるのよ
いま、みんなはネットで探して本を買ったりするよね?
で、思いがけない本だってレコメンド機能で探せるかもしれない。
でもね、ホントの掘り出しものとか、古い本だけど探しているんだとか、そういうものにアナログな探しかたも捨てたもんじゃない。
ネットで、生活や人生のすべてがまかなえるわけでもないの。
だから「本屋・書店で読みたいSF本を歩き回って探す」でも書いてるけど、本屋にいくと時間がゆるすかぎりウロウロと歩く。
歩き回って「おっ」と目にとまった本は手に取りたしかめる。
そうして見過ごしてしまいそうなおもしろい本を買う。
この本はそうして手に入れた。
まあ、ページをあけて「レディ・がっかり」ってな言葉が見えたときから楽しみだったのよ。
シリーズものとして書き続けてほしい
話はおもしろくて楽しい。
そしていろいろと伏線になるものがばらまいてある。
だから、それらをひろって組み立てて、べつの大陸・べつの主人公で話を書いてほしいなぁ。
最終的に全部をつなぎ合わせるような大きな物語を読んでみたい。
すごくいい目のつけどころもあるの。
ものすごい混血の青年が出てくるんだけど、彼は人種的に「メルティングカラー」って呼ばれている。
子どものころは人種的な自分のルーツがわからなくて混乱していたけれど、あるとき気がつく。
「あらゆるものが自分のルーツだ」
これってすごい。
ひとことで肯定できている。
ファンタジィだから話のなかの時代設定は、今の地球の中世ごろを想定していてもおかしくはない。
でも、今から書くのならやはり新しい考えかたをふまえて理屈を組み立ててほしい。
単純に「人種差別」があって、みたいな進めかたは物語がかるくなっちゃうから。
人種差別はなかなかなくならないけど、それをどんな説明と理屈で話にまぜこむのかながとても楽しみ。
ああ〜、いつかシリーズものの続きとして次回作を読みたいわ〜
追記:実はべつの大陸の話はあったらしい
さとうはアルスルの本を先に読んだのでわからなかったが、この作家のデビュー作はどうやら同じ世界観のべつの大陸を舞台にしているものらしい。
その本はこちら。
作家が出版した順番にはなかなか読めないもんだから、いいかげんなことを書いたわ。
反省してます
時間をみて読みまーす。
個性のある作家だなって思っているから。
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