百合、と聞くとまずは花のユリを思いうかべる。
でもこの本では「百合=女性の同性愛」のことを意味するらしい。
なんでこんなことを書くかというと……
あらすじの前に、同性との関係性をまじめに考えてほしい
「百合=女性の同性愛」というテーマで短編をまとめたアンソロジーの本。
女性同士の恋愛だけでなく、恋愛に近い友愛や広く友情をふくんだ作品を含めてもよいらしい。
だが、同性同士の人間関係について深くまじめに考えることになる。
今回は「百合」についてのSFなんだが、そのまえに一応、男性同士も関係性はあって男性の同性愛を「薔薇」と称することがあるのを記載しておく。
なんでこんなことを書くかというと、さとうがまあまあな年寄りだから
まあまあな年寄りということは、今以上に男女格差のある社会で生きてきた経験があるってこと。
いろんな人間が友情をはぐくむ社会において、なぜか「男同士の友情」はつねに美しく尊いものと宣伝されてきた。
一方、女同士の友情はたしかに存在していて女同士助けあってきたにもかかわらず、「女の友情なんて」という低いあつかいをされてきたのよ。
それだけではなく最悪なことに「男と女の間に友情はない」と言いきる男が多くて、うんざりしていた。
人と人との間にある関係性に、多種多様な色や形があるのがふつうだ。
だけどそれを考えてないヤツらがいるんだなあと、うんざりした過去があるんだね。
「男と女の間に友情はない」としか考えられない男って(女もだけど)、もしかして性欲だけが人間関係の基本なのか?って思っちゃうわけ。
今でこそ、いろんな考え方が容認されつつある時代を迎えようとしている。
されつつ、迎えようとしている、だからまだまだなわけだが
けれど、まずはどんな性も関係も同じように尊重する考えを持ったうえで、この本を読んでほしい。
ホモ・ソーシャルについて鈍感な人には読んでもらいたくない。
ホモ・ソーシャルが何なのかわからない人は、このマンガを読んでくれ。
【アステリズムに花束を】短編9作の
キミノスケープ
あなたが見る景色のなかに、どんな変化があるのだろうか。それは意味のある変化なのだろうか。延々とつづく景色=スケープの描写が、どこかで変わる。そこまで、あなたは耐えられるのか。
四十九日恋文
こんなシステムが実在したら、心残りを募らせる人、心に安らぎを得る人、悔しさにまみれる人、後悔を残さずに過ごせる人、いろいろな人があらわれるだろう。個人的にはこのシステムがほしい。
ピロウトーク(コミック)
位相幾何学による欠損を埋めるってことは、とてつもなく幸せなこと、そして苦しいこと。二人の関係は、果てしなくくり返されるのだろうか。
幽世知能
この宇宙である現実とはべつに存在する、もうひとつの未知なる宇宙「幽世」。ふたつが接する場所には超自然現象が起きる。そこで幼なじみと会う主人公は、自由エネルギーやリカレントニュートラルネットワークの話におよんだ挙句………
彼岸花
女学校の寄宿舎で、お姉様と慕われる姫様と大事にされる妹がわりの主人公は。ふたりは美しくも思いやりにあふれる日記を交換する。そのなかで交わされる「死妖」とは?
月と怪物
時は20世紀半ば、大国が世界を二分するかの時代、かの国の遍歴とともに運命を揺さぶられた二人の姉妹を軸に淡々とドラマは進む。2019年にネット上で話題となった「ソ連百合」と呼ばれる話。じわじわ来る。じわじわ来るんだよ〜。
海の双翼
突然出会った、「鱗晶」を身につけた人間と異郷からきた鳥人。でも「鱗晶」にもひとつの人格があって人形体として人と共に生きていた。奇妙な三角関係の、行末は悲劇だろうか。
色のない緑
もはやAIは、人間の思考を脚色するところまで進化を進め、ディープラーニングがブラックボックス化していくことを止められない。「色のない緑の考えが猛烈に眠る」という文の文脈を考えることのできる私たちは、いつまでその存在を証明できるのだろうか。
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ
デコンパ、ツイスタ、サーキュラーズ。それらが何をさすのかがわかってもわからなくても、ハイでスピード感のある恋愛小説だってことが楽しくてしょうがないSFだ。
さとうがこの本を読んだ理由
女性の人間関係に注目しながら描かれたSF、ってだけで読むしかないって気持ちになる。
男はつねにマウントを取りたがる。
だが長い歴史のなかで差別されてきた分を同じ量だけ女性が取り戻したら、きっと女性の方が大きな仕事・きちんとした仕事をこなせるだろうとさとうは思っている。
SF界でも男女差別はあってさ、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.についての話は有名。
まったく、創作物に対して失礼だわ。
追記:本の成りたちの説明
本のまえがきにも書いてあるが、この文庫本には
- SFマガジン・百合特集に掲載された短編4本、コミック1本
- コミック百合姫とpixivが共同開催したコンテストで「ソ連百合」として話題をよんだ短編1本
- SF創作講座出身の新鋭作家2名による共作1本
- 本屋大賞翻訳小説部門で第2位に輝いた作家の書き下ろし1本
- 小川一水氏の最新(だった)宇宙SF1本
と、盛りだくさん、かつ、いろいろな角度から作品を集めている。
定価880円(税抜き)だったけど、めっちゃ得した気分になるわ〜。
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