「幕府」とか「天帝」とかの言葉を見たら、日本史をならった日本人は反射のように「江戸時代」を思いうかべる。
しかしこの話には江戸は存在せず、「江戸」なんて言葉はひとことも出てこない。
だが、それでも江戸時代を思わせる描写はすごい。
【機巧のイヴ】のあらすじ
頃はおそらく、江戸時代後期を思わせるような設定。
女系で継承される天帝家と、将軍家が維持する幕府・幕藩体制の世の中が舞台。
限られた人たちにしかよくわかってない「機巧人形」をめぐり、権力があらそわれ愛情がもつれる。
第一話 機巧のイヴ
闘犬のようにコウロギを競わせる闘蟋会でコウロギの機巧人形を見た江川は、ひとづてに釘宮の屋敷を訪ねる。なじみの遊女を身請けしたいがちょっとした確執があり、彼女そっくりの機巧人形をつくりたい、と希望する。ややあって完成したと連絡のあった遊女の機巧人形とともに過ごしていた江川だったが………せつない結末が待っていた。
第二話 箱の中のヘラクレス
湯屋ではたらく天徳は、生まれもった体格を生かして相撲で身を立てようとする。だが運悪く災厄が降りかかり、湯屋に通っていた伊武を通じて釘宮とかかわることになった………伊武という機巧人形の想いはどこに………
第三話 神代のテセウス
公儀隠密の甚内が釘宮への不審な金の流れを調べていた。が、甚内の雇い主が殺害される。自分の身を守るために動く甚内は、精錬方の書物が保管されている土蔵へ忍び込み、天帝家にかかわる大きな秘密につかむ。釘宮を追求しようと屋敷へ向かった甚内が見たものは………
第四話 制外のジェペット
舞台は上方(らしき場所)の御所。天帝に仕える禁中の娘・春日はいつもどおりにお世話のために出仕する。だがその日にかぎって天子様からお声がかかり………粗相があって御所から出される娘がいると聞き、甚内はそのものをかどわかす作戦に出る。かどわかしに成功したかに見えた作戦は、その後、大どんでん返しとなり、甚内の身の上をも変えていった。
第五話 終天のプシュケー
そして10年が過ぎた。釘宮の内弟子となって機巧の技を学ぶ甚内は、知りあいから「神代の神器」が掘り出されたことを聞く。折りしも、幕府の人間によばれて天府城におもむいた釘宮はその機巧人形を検分していた。運よく闘蟋会が催されていた天府城に様子見に出かけた甚内がそこで出会ったものは………
魂はどこから来るのか
むかしから、脳とは別に「心はどこにある?」「魂は本当にあるのか?」という話題が尽きない。
脳はね、人体を解剖すればかならず、ある。
見てわかるかたちあるモノが存在しており、多くの人が納得できる。
心は?魂は?
残念ながら、かたちがない。
だから「どこにあるんだ?」と疑問をもつし、極端な考えかたをする人は「そんなものはない。あるのは脳だけだ」という。
では「心はない」「魂はない」という人に聞きたい。
あなたに感情はないのか。
あなたに思考はないのか。
たぶん、こう返るだろう。
「感情や思考は脳神経のはたらきだろ」
はい。だから私見をいうね
心や魂も、脳という臓器の神経たちが生み出す「ある種のはたらき」なの。
そうとでも考えないと、自分の中で納得できるものがない。
伊武や神代の神器が動き出す場面を読みかえすと、釘宮の情感が精巧な機巧人形のしくみになんらかの形できっかけを与えたことがわかる。
動き出してしまえば人間とほぼ変わらない機巧人形たちのしくみが、人間から与えられる「なんらかのはたらき」に刺激されてめざめる。
そこは小説というフィクションのロマンね。
でも現実だって、驚くような不可解なことは起きる。
事故で遷延性意識障害におちいり、目覚める可能性はないかもと医療サイドからいわれた人が、なんらかの刺激でめざめることはニュースでみる。
「何が」「どのように」作用したのかははっきりとは解明できてなくても、めざめる人はいる。
目には見えず、形も確かめられはしないけれど、人間が生きていくのに必要な「なんらかのはたらき」は存在しているんだと思うよ。
そしてそれらは、どこからか来るものもあれば、もともと自分の中にあったものもある。
心や魂は、そういうものだと考えながら生きていくのがいい。
さとうはそういう大雑把な人間です
さとうがこの本を読んだ理由
本の題名が「機巧のイヴ」よ?
ちょっとそそられる。
さとうはSFが好きだから、むかしからオーパーツの話題とか読んでいた。
大人になってオーパーツの話はだいぶ捏造も混じってるとわかったけど、とにかく、時代を超えたテクノロジーって設定が妄想をかきたてた。
しかもこの本は、意識しなかったら「江戸時代の話かぁ」とすんなり思っちゃうほどそれらしい世界に引っ張りこまれる。
すばらしい、そしておもしろい。
SF好きにも時代小説好きにもウケる。
さとうはどっちも好きだから、めっちゃ楽しく読めたわ
なお、この話はシリーズで「機巧のイヴ 帝都浪漫篇」「機巧のイヴ 新世界覚醒篇」があります。
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