戦争が続いているというひとつの世界のなかでの、神と女と世界と戦争の11篇。
なんとな〜く読んでいっても感じるところがあるの。
いろいろなカタチの女神が見えてくるよ。
【戦争を演じた神々たち】のあらすじ
一方的に進撃するクデラ軍とキネコキス軍の戦争が通常の状態になっている宇宙。
歴史的な長さにわたる戦争のかげで、それぞれの事情のドラマが展開する。
天使が舞い降りても
先の宇宙港でよるべのない年寄りを親切にもワイエス号に乗せてしまった船長は、迷惑千万なその彼が調査部のリサーチで「エコー」であるとわかった。その彼が突如、戦争に巻き込まれると予言し、その一端を目撃することでとんでもないエネルギーを得てしまう。彼が成し得る「反作用」とは何か。
カミの渡る星
銀河系世界の地球文化圏から惑星都市アテルイに追放された元・執政官は、新しい場所で守護聖霊を得る。アテルイにいる誰もが持つ守護聖霊はここに暮らすものたちを結びつけ、情報を集める。そのシステムは、やがて来る戦争のきっさきにどのように対処しようというのだろうか。
宇宙で最高の美をめぐって
収容所の泥をこねあげて作り出された美の女神は、自分を作り出してくれた「じいちゃん」と自分にひとめぼれして奪っていった「デルフィ」と、その他関わってしまった多くの人々を、戦争の最中に別の戦争へと巻き込む。人間が作り出した女神は、果たして善なのか悪なのか。
楽園の想いで
「宇宙で最高の美をめぐって」の反作用のような話。どこにでもいるような女が神聖を有するとき、善や悪はむしろ、彼女を見る側にあるのではないだろうか。作家本人が「ポスト白雪姫」と言っている。
ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)
仕事のできる優秀な妹と、善人だが迷惑ばかりかけている兄。惑星セレスの緑化学がタダみたいな値段で惑星環境装置を手に入れようとして、装置のAIに脳を提供する自殺志願者の顔を見た妹は、うんざりした。そしてせいせいしたいがために無視を決める。だが、兄が装置に繋がれたあとで、セレスは戦争に襲われた!
女と犬
たゆたう時間とそこに存在するということ、それを目に見えるカタチにして話をすすめるなら、それは女と犬になる。なかなかに恣意的な話。
恣意的って
1.論理的な必然性がないさま
2.気ままで自分勝手なさま、好みや思いつきで行動するさま
をいうんだけど、詳しくはこのページを見てね
けだもの伯爵の物語
外見がティラノザウルスであるけだもの伯爵に、F記者は単独でインタビューを試みる。いまや王の中の王と呼ばれる彼が伯爵位を守っている理由は何か、うわさされる冒険の話などを聞き出した記者は、次回の取材の約束を取り付ける。が、しかし………
異世界Dの家族の肖像
キヨン系第四惑星サダ、のD地区。ここで開発された生態系変更プログラムは、大型の特殊生物を用いていた。しかし完璧だと思われているこのプログラムでの生物たちも、入植している地球人にわずかずつ似はじめ、進化・変容のために新しい要素を加えようとする。それは。
世界でいちばん美しい男
地球が開発し、滅びたのちに奇形的な文明が発達した惑星デルダド。生き延びるための遺伝子改造の結果と出会う別文明の人間。彼らは、存在と時間が現れる特異点へと向かい、やがて思いがけない変化を経験する。
戦争の起源
11篇をつらぬく、長きにわたるクデラ軍対キネコキス軍の戦争の、ここが始まり。いつも思うことだが、こんなどうしようもないことでなぜ戦争は始まるのだろう?
シルフィーダ・ジュリア
クデラ軍がキネコキス系の第四惑星を攻撃した。AIをまとうシルフィードに乗っていたジュリアは軍の変化を知りAIを通してキネコキスの実態も知る。その実態となるものがついに、キネコキスの軍列、とのちに名づけられるものを興した。
命をつむいでいくから世界は続く
SFって、話のつながりが作家独特の世界観で進んでいくから、わかりづらい物語もある。
カタチとしてこの本は、作家・大原まり子の頭のなかをさまざまな角度からおもてに取り出して見せてくれたような感じだった。
妖しい美しさ、とでも呼びたいものが、ずーっと行間にただよっている。
その妖しさは話の理解を助けてくれる
実際には、そのただよっているものと命の結びつきにおもしろさを感じていた。
さとうがこの本を読んだ理由
作家の大原まり子さんは、作家になる前にいわゆるBL系雑誌に投稿したら、中島梓氏にすすめられてSFの話を書いたらしい。
中島氏がめっちゃ激推ししてBLよりも本格的な話を書くようすすめたとかの話を、中島氏の書いたもので読んだことがある
だから興味がわいて、これは読むぞと心して読んでみた。
さとうはBLも嫌いじゃない。中島氏は栗本薫名義でSFもミステリもガンガン書いている作家で、BL系の雑誌も編集長として運営していた。
だからその人が見つけた才能をぜひ味わいたいと思った。
変な話だけど、この人の作品を読んで、さとうは自分が女で良かったと思った。
命をつむぎつないでいく感覚がよくわかるから。
体感としてわかるから、そういうものから神話が生まれるということが理屈と理屈以外で理解できて、楽しかった。
そしてまた、生命の存在にかかわるならそこには神がいるのではないか?
すべての話には現実と神聖という、妖しい作用・反作用がひそんでいた。
同じ次元の世界のなかで、宇宙がうねる感じの11篇の短編。裏表紙にも「見えざる逆説と循環の物語として紡ぎあげられた」と書かれている。
かもし出されるものの美しさと破壊的な内容を楽しんでほしい。
この作品は1994年に第15回日本SF大賞を受賞されている。
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