これは女子向けスペースオペラ。
「スペースオペラってなあに?」とおっしゃるSF初心者女子にオススメの、ハードボイルド風ラブストーリー。
ちなみにスペースオペラとは「宇宙冒険活劇」と呼ばれる、宇宙が舞台の大ドラマのこと。
【スカーレット・ウィザード 1 】のあらすじ
共和宇宙全域に影響力を持つクーア財閥。その2代目総帥たる女王が「海賊達の王」に仕事を依頼した。
それは「1年だけ結婚してくれ」というもの。
嫌がる王をねじ伏せ、システムを丸めこみ、法的に正式な婚姻をすませたクーアの女王だったが。
極秘会議に出席するために、全宇宙一治安のいいシティに「新婚旅行」に行ったはずの二人が、ホテルに入った時点でなぜかテロリスト扱いとなる。
知らぬ間に、連邦軍に命を狙われていた………
なるほどと感じた5つのセリフ
クーアの女王・ジャスミンは、体力無双・知力最強・スタイル抜群・対人スキル万全………あと何だっけ?
ただでさえ、巨大財閥のトップという、財界にも政界にも連邦軍にも顔のきく立場にいるのに、個人としても突出した能力を持っている女性なの。
フィクションの世界にはありがちと言えばありがちなキャラ。
でも、めっちゃプロフェッショナルな考え方で生きている人なの。
この1冊の中でさとうがなるほどと感じたセリフを5つ、紹介する。
生きている女性がおしゃべりするのとは違うので、無駄のない切れ味のよい言葉使いになるのは、小説だからあたりまえと言えばあたりまえなことかもしれない。
小説は載せる紙面によって字数の制限があるものね。
それでも、核心をつく言葉づかいで話を進めていくのだ。
これらのセリフ、全部、疑問形で終わっている。
なんでさとうが「なるほど。ステキだわ」と感じたか、次で説明する。
セリフの背景と本質を考えると、いまの時代でも「だよね」と思うことばかり。
ステキな女性の魅力とは、見た目以上に態度・行動がものを言う
もったいぶらない
これは、身長が196センチある海賊達の王・ケリーが、めったになく見下ろさなくても会話できる相手・191センチのジャスミンに「女性にこんな質問は失礼かもしれないが………」と問いかけたときの返答。
とかく女性は、自分に関して数字の質問をされると、サバを読むか質問返しで答えることが多い。
「何歳ぐらいに見える?」
「そういうあなたは身長いくらあるの?」
「ギリMサイズ、モノによってはLサイズの時もあるかなぁ」
あからさまにごまかしているとは見えないように、うまくかわそうという気持ちが実は見え見えの答えなんだけど、つい言っちゃう。
さとうもよく言うね、そういうごまかし。えへへ
でもね、質問する側には、そういう意図はたいていの場合、バレている。
ジャスミンは、もったいぶらずにサクッと答える。
彼女としては、身長なんか見たまんまなのでごまかしようもなく、ごまかしても意味がない。
しかも、男より小さい女だからかわいい、なんてアピールする考え方はジャスミンには1ミリもない。
あるがままの自分を曲げずに認めている。
あるがままの自分をそのまま認める。
これってむつかしい。
自分に自信がないとできない。
でも、自信を持つにはどうしたらいいのかを考えたとき。
さっきの言葉を逆にしてみたらどうかなと思った。
自信を持ちたいんだったら、もったいぶった言い方をやめてみてはどうだろう?
少しは若くみられたいなという気持ちを持っていてもいいけど、年齢を聞かれたらそんなもの気にしてないわ風に「60歳ですよ」とサラッと答える。
身長を聞かれたら相手の目算をこっちが予測するような気持ちで「あら、見たままなのよ、150センチです」と答える。
サイズを聞かれたら「細くみられたいけどLサイズなのよね」とにっこりして言ってみる。
内面は見えないので、どんなふうに考えるのも自由だから。
でも外側は見えているので、もったいぶらずにサクッとそのまま認めてしまおう。
言いわけを考えるのはエネルギーが要る。
バレてるんだったら、エネルギーの無駄になっちゃう。
ジャスミンはそういう無駄なことはしない。
もったいぶらずにサクッと事実を話す。
このストレートな姿勢がステキ。
今、必要なことを指摘する
2.「答えになっていない。ダイアナはこの船の業務を妨害したのか?」
ダイアナとは、海賊ケリーの宇宙船の感応頭脳。いわゆるAI、しかもすこぶる優秀な頭脳。
ケリーの手術中にケリーの機械義眼を通して医療補佐ロボットを操作できるくらい優秀だ。
そんなAIの搭載された宇宙船を、修理のために船中に抱えこんでいるジャスミンのバカでかい宇宙船のスタッフは、自分たちの宇宙船も操られるのではないかと不安でしょうがない。
でも、彼らより先にダイアナの実情について理解しているジャスミンは、わけもわからずに不安がっているスタッフに、何に着目すべきかを指摘する。
ここ、仕事する人なら大事なところ。
自分の宇宙船の中に抱え込む前にダイアナ(とケリーも)がどういう存在なのかを、ジャスミンは確認してある。
仕事をするときも、早手回しに確認をとっておくことがスムースにものごとを進めるための方法の一つだよね。
だからこそ、自分の部下に対してもピンポイントで指摘できる。
実はこれ、次のセリフにも関係あるの。
これは、ダイアナがあまりに優秀すぎて、ジャスミンに着目点を指摘されてもその意味がわからず不安を消せないスタッフのために、ジャスミンがダイアナ本人にプライベートを尋ねる場面。
なぜなら、最優先命令があるかぎり、それを妨げられなければ暴走はないだろうとジャスミンは冷静に考えるから。
人間のように考える、と見えるけど、ダイアナはやっぱりAIなのよ。そしてジャスミンはそのことをきちんと理解している。
だから、今大事なことは、やたらと先走って不安がることではない、とスタッフに指摘するの。
必要なことを理解しているリーダーが「今」必要なことを指摘できるって、ステキね。
「必要」というのはいったい誰のため?何のため?を適切に考える
では、必要なことだと言えば何でも良いのかというと、そうではない。
4.「メルヴィン。その必要というのはいったい、誰のために、そして何のために必要なんだ?わたしにわかるように説明してくれないか」
まさにそのままのセリフ。
ダイアナが優秀すぎて、技術スタッフのトップである情報管理長・メルヴィンが「どうしても詳しく調べる必要があります」と好奇心をむき出しにしてハイテンションで発言したときの、ジャスミンの言い分。
以前、テレビで、アインシュタインがお亡くなりになってからその脳が細かく切り分けられて世界中の人に配られてしまった話を見た。
天才の脳を保存しておきたいという人類の要望は、言葉だけ見ればわからなくもない。
でも、脳を保存してもその中の活動を利用できる形にアウトプットできる手段が、今はまだない。
しかも何かの記念品のように、小さな切片にして多くの人に分け与える、その必要性はどこにあったのだろうか。
好奇心は、学問や研究を前へ推し進めるための大事な要素だ。
でも、好奇心を向ける対象に対して配慮の足りないアプローチをおこなうことは、ただの暴力でしかない。
なんでもかんでも知りたがりの調べたがりはよくない、とジャスミンは釘を刺している。
そういう配慮や自制ができるところがステキなところ。
能力に合わせて仕事を任せる
5.「海賊。わたしはこういうときに人を男か女かでは分けない。戦えるか戦えないかで分ける。おまえはどっちだ?」
さとうがいちばんステキだなと考えたのは、やはりこのセリフ。
さとうは歳をとった人間だが、長らく、性差ではなく個人差だろうと思いながら仕事の場面を見てきた。
「男だからできる」
「男だから無理だろう」
「女だから任せられない」
「女だからできるはず」
そういう言葉は飽きるほど見たり聞いたりした。
でも、きちんとした研究によるデータを示して話をした人は見たことがない。
また、男性でも育児や料理のプロはいるし、女性でも伝統技能や専門知識の必要な仕事をこなしている人を多く拝見する。
ある程度のゆるい傾向はあるにしても、能力差は個人差だと思う。
できるできないも、向き不向きも、好き嫌いも、個人の問題で、それをじゅうぶんに配慮してこそ効率のよい仕事環境が作れるとさとうは考えている。
だからこそ、ジャスミンはステキな考え方をするキャラクターで、仕事のできる女性だなと思っているの。
さとうがこの本を読んだ理由
パラっと見たら「これはとてもマンガチックな楽しいキャラが出ている話ではないの?」と思った。
いわゆる「つかみはオッケー」という感じで捕まった。
読み進めていくほどに、ジャスミンのサバサバとして論理的で前向きな言葉や態度にどんどん惹かれていった。
この話が書かれたのは1990年代。ようやく女性が男性と同じ扱いで仕事する法律がきちんと(名称も含めて)出来上がってきた時代に、書かれた。
女性の方はとっくに、フィクションであってもこんな風に仕事できたらいいのになと思っていたんだね。
そんな感想を持ったので、若い女性には特にこの本をオススメする。
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