危機的状況のとき、来るはずの助けが来なかったら人はどうやって生きていけばいいのだろう?
この話はおもしろい、おもしろいんだけどだんだん息苦しくなってくる。
でも大好きな時間SFだからきっと最後に救いがあると思って読んだ。
【時砂の王】のあらすじ
西暦248年、ひとときの自由をもとめて宮室を出た卑弥呼は物の怪に襲われる。が古くから伝わる「使令(つかいのおきて)」の使いの王と思われる男に助けられた。
その使いの王は、じつは2300年後の世界で覚醒した人工知性体だった。
人類の殲滅をねらう謎の戦闘機械群と時空を超えた絶望的な闘いを繰り返し、その最終防衛線が3世紀の邪馬台国だった。
彼らは時間をさかのぼり、人類の存亡をかけて現地人ならぬ現時代人にできるかぎりの自衛のススメと援護をおこなう。
果たして未来の人間を救うために過去の人間は努力できるのだろうか?
卑弥呼と邪馬台国が舞台
裏表紙の紹介に「邪馬台国」と書いてあるので、それほどネタバレではない。
それにしてもSFなのに3世紀がだいじな場面になる話。
もうそれだけで「どうなるん?」とワクワク
でもそもそもこの話は、太陽系を奪回するという未来からはじまる話だったことが2章目にあたる「Stage001 TritonA.D.2598」でわかる。
CONTENTSというもくじと見るとわかるが、過去と未来がぐるぐる入れ替わる。
さとうは時間SFが好きだから耐性がある。
けれど、時間が行ったり来たりする話が苦手な人は読みにくいかもね。
パラレルワールド、っていう言葉は知ってる?
日本語で並行世界とか並行宇宙とか並行時空とか言われてる。ある世界から時空が分かれて、それに並行して存在する別の世界(時空)がある、っていうこと。
理屈はよくわからないけど、量子物理学というむつかしい学問の世界では「観察はできないが理論的には存在すると考えられる」といわれている。
異世界とか魔界とか四次元世界とか、それらはパラレルワールドとはちょっとちがう。
パラレルワールドは、私たちが今いる世界とおなじ次元をもつもう一つ(か、二つか三つかはわからないけど)の世界。
この話は、そんなパラレルワールドの未来からの助けが過去に干渉する話でもある。
干渉していいのかな?むかしのSFのセオリーでは干渉しちゃダメだったんだけどね
理想的な知性体がはやくできてほしい、というのは危ないかも
この話には設定として「未来には理想的な知性体やそれを尊重する統治機構がある」ことになっている。
なぜ(おそらく人工的な)知性体が理想的なのか。
話のなかでどんどん時間をさかのぼり、闘いに勝つために人類の結束をめざして未来から来た知性体が理非を説くんだけど、全然うまくいかないんだね。
なぜかといえば人間には欲があり、表向き協力態勢をとっても、裏では対立が消せないからなんだ。
SFには、そういうめんどうくさいものを廃した理想的なトップとしてしばしば人工知性が登場する。
感情的なものが入らないとか、公平に判断できるとか、積み重ねた膨大な知識からまちがいのない選択ができるとか、そんなものを期待されるわけ。
でも人間が人間らしく生きていくのに、機械のようになにもかもキッチリ区切れるはずがない。
自分たちの生活や社会における決定を、誰かにすべてゆだねるっていうのはじつは危険なこと。
だって、なにかあっても言いわけできない。
言いわけしないのはすごくいいこと。だけど、言いわけできないのはちょっと苦しい。
言いわけを考えるって、頭を使う行動のひとつだよね。
誰かにすべてをゆだねると、頭を使わなくなる可能性が増えてしまう。
おかしい状況がつづいても、頭を使わないくせが染みついていると「おかしい?」って思わなくなる。
それって、自分の身をまもる・自分の権利をまもる立場から考えると本当に危ない。
だから、自分たちのことは(知性体や未来人にアドバイスをもらえたとしても)ちゃんと自分たちで考えて行動しなくちゃならない。
じつはこの話の結末も、自分たちのことは自分たちでがんばっていくぞ!と主人公が決意したところで見えてくる。
Oh Yeah! 前向きね
さとうがこの本を読んだ理由
それはズバリ、時間SFが好きだから。
SFにいろいろなカテゴリーがあることは「SFを読んでみよう」という最初の記事で書いたとおり。
どのカテゴリーもさとうは好きだけど、時間を超えて、なんていう現実ではぜったい体験できない分野には、もうとびきりに惹かれちゃう。
しかも舞台が、3世紀だからね。そりゃあ、その先がどうなるんよ?って気になるわ。
時間SFは、同人的妄想にふけることのできる最たるフィールド。
だから大好きなの
卑弥呼を救った使いの王は、2300年後の世界から来た人型人工知性体でスーパーマンのようで過去の人間の立場としてはとても頼りたくなる。
でも彼らだって自分たちのために闘っていた。
人とほぼ変わらない彼らにも切ないエピソードが思い出としてある。
人型人工知性体が卑弥呼とともに主人公の位置にいるけど、人間くさい話だった。
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