【スカーレット・ウィザード 5】母性は神話ではなく権利

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【スカーレット・ウィザード 5】のあらすじ

諸事情あって女優ジンジャーの身の上話からはいる5巻だが、もちろん話は4巻から続く。

映画を作るならこういう手順で準備を整えるのかという流れで、クーア夫妻は要塞攻略の作戦を進めていく。

息子を取り戻すために、使えるものはなんでも使う。

非常識な夫婦が考える「なんでも使う」作戦なので、超ド級にハチャメチャな展開で(でも一見スジは通っている)突き進んでいく。

使用したら〈クーア・キングダム〉が壊れるかもしれない最終兵器を使うとか、ジャスミンの人脈で連邦軍の力を借りるとか、共和宇宙連邦の主席に頼みごとをするとか、いやいやそれらを全部を使う言いわけを強弁するとか。

すべてを「映画撮影」と言いくるめる。

ほかにも細々とした準備はあるが、タイミングが整ったとき、要塞攻略作戦がはじまった。

この戦いにいたる過程、そして戦いの最中、誰が本当の悪人だったのかが判明していくのであった。

そしてすべてが終わって、家族水入らずのクーア家、と思いきや、最後の最後に大どんでん返しが………

こどもを大事に思うのは母も父も同じ

こどもを大事に思うのは、母であろうが父であろうが同じだろう。

この話でも、ジャスミンは言うに及ばず、ケリーも息子の心配をしている。

ただ、ジャスミンは息子がさらわれたことを知ったとたん瞬間的に爆発し一刻もはやく行動せねば!となったのに対して、ケリーは冷静に考えてジャスミンに忠告する。

これって、むかしなら「母性と父性のちがい」って言われるんだろうなとさとうは思った。

さとう

母は本能的に反応し、父は理性的に反応するとかの感じ、ってね

でも、シングルでこどもを育てている人もいるのに、単純に「母性・父性」って言葉で言い切っていいのかな。

たまたま、母親には授乳できる機会があってこどもと接触している時間が長いってだけ。

こどものことを一生懸命に考えたりこどものためにいろいろな行動をとったりしているのは、父親も変わりないはず。

あるいは、変わりなくやらねばならないはず。

どの生き物も、「種族の幼いものたち」を「保護しなければならないもの」として、守り育てる。

生き物の生存本能として遺伝子に組み込まれているのよね、子孫繁栄のために。

人間は本能だけではなく、知恵や知識があるのだから、母や父といった役割分担にこだわる必要はない。

みんなで関わって助けあって育てていけばいいんじゃない?

子育てには愛情と環境が必要

5巻では、長年の秘密であったケリーの過去について、ついに全貌が明らかになる。

そこには特殊な生まれ・育ちがあったのだが、ケリー本人にとっては何かが起きるまではそこはあたりまえの環境でしかなかった。

後日、ジャスミンが同じ生まれの子どもたちを見ていたときに、それがはっきりわかるのだ。

こどもは生まれより育ちで変わっていくのだと。

だからこそ、自分を「何も知らないお嬢さん」扱いして会社を自分たちのモノにしようなどとたくらむ男たちに息子をさらわれたジャスミンは、すぐにでも息子を取り返さねばならないと考えた。

息子が、愚劣な男たちの道具のような人格に育てられてはたまらないもの。

状況が最悪で要塞を攻略する準備にどうしても若干の時間がかかってしまう、その時間さえ待てないくらいの気持ちなんだよ。

ケリーもそこは理解している。

「あんたと俺の子どもがハワードやブライアンのような連中を『お父さん』なんて呼ぶことになったらと思うと虫唾が走る」

父親の権利なんか主張しないと言っていたケリーも、愛情という点ではまっとうに父親だった。

実はジャスミンは、人間の子育てがたいへんなことはじゅうぶんにわかっていた。

自分がものすごく忙しい責任ある立場で、子育てに時間がさけないこともわかっていた。

それでもこどもが欲しかった。だからケリーを襲うようにして誘い、妊娠を計画して出産までなんとかこぎつけた。

ジャスミンがわかっていたこと。それは

  • 子どもが一人前になるまでの期間がやたらに長い
  • その分、人的及び経済的負担がハンパじゃない

この2つね。

シンプルだ。

しかし現実の大人たちの中にこの2つがわかっていない人がいる。

たった2つのことを、社会のシステムの中に「あたりまえ」として組み込んで子育てが負担にならない社会をつくれば、たぶんこの国はもっと発展していく。

いま騒がれている子育てがらみの問題も、ほとんど解決できるだろう。

母性という言葉に含まれるもの・イメージに、頼るのはやめよう。

頼るということは、母性を背負わせている人に犠牲を強いていることだから。

母性は「こうあるべき姿、こうあるのがあたりまえ」な、神話的存在ではない。

母性は、権利だ。

子どもを育てようとしているすべての人の権利だ。

だから世の中には、

  • 権利を適切に使っている人
  • 権利を使うとめんどくさいこともしなくちゃならなくなるからやーめたと放棄している人

がいるだけなのだ。

ジャスミンには優秀な人材も経済的な余裕もあった。

だから、自分で面倒を見られないとしても子どもを産む選択をしたのだ。

愛情もあったし、適切な環境を整える能力もあったから。

さとう

都合のいいように会社を動かす部品として(ジャスミンの息子を)育てよう、なんていう邪念のある大人は愛情があるとは言えないよね

子育てに愛情と環境が必要、なんて、いまさらだよね。

さとうがこの本を読んだ理由

ようやくシリーズの最終巻まで紹介できた。

おもしろいものは、最後まで読んでしまう。

この話は主人公たちがしっかりと個性的で際立っていて、戦闘シーンがアニメっぽくわかりやすい描写だったので、どんどん引きこまれて読んでしまった。

しかも、主人公のジャスミンがとても強い女性だったので、さとうがモヤモヤしてうまく言い表せなかったことをズバッとハキハキ発言していて、読んでいてとても気持ちよかった。

このシリーズは、ぜひ女性に読んでほしい。SF初心者に読んでほしい。

スペースオペラって、こんなふうにおもしろいのよ、と言いたい。

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この記事を書いた人

昭和生まれ。なのでリアルな顔写真はご勘弁を。
オタクという言葉がなかったころからSFを読んでいます。
オタクのはしくれなので読んだ本を紹介します。

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