【鋼鉄都市】SFに寄るかミステリを楽しむか

小説って人間ドラマを展開するもの。

だからSFだろうがミステリだろうが、登場人物どうしのアレコレがおもしろいのよ。

目次

【鋼鉄都市】のあらすじ

宇宙人と地球人が混在しながら、自由に行き来はできない宇宙市とニューヨーク・シティ。

宇宙市での宇宙人惨殺という前代未聞の事件がおき、ニューヨーク市警本部が担当せざるを得なくなった。しかも市警の担当刑事のパートナーとなるのが、宇宙人側のロボット刑事。

この事件を解明するために、宇宙人やロボットへの反感をやりくりしながら、二人はぎこちなく協力していく。

侵入がむつかしい場所での犯罪に手をくだしたのは誰か。

だからってこの話を、ブロマンスとかいうな

この話は恐れおおくも「三大SF作家」とよばれた御大のひとり、アイザック・アシモフ先生の作品。

なまえを紹介するだけでもすごい肩書きがつくほどSF界で存在感のある、めっちゃ博識の作家が書いた話だ。

アシモフについては、さとうのもっている本の後書きのようなページに、あの福島正実氏がくわしく説明を書いている。

………っていうと、めさめさ古い本なんでしょ?って思われるかもしれないけど、さとうの本は2019年5月に27刷目として世に出された本だ。

さとう

たいしてふるくないのよ

そう、わりと最近、買った本。

27刷目ってすごいわ〜。

だがだからこそ言いたい。

オビに「アシモフが遺した奇跡のブロマンスSFミステリ」とか書いてあった!

令和の時代に印刷して売ろうとしている本なのに、そういうちょっと方向のちがうあおりのオビはやめてくれ。

そういうことばを安易に使うと、ホモソーシャルな人間たちがよく考えもせずに「そうなんだよ」と肯定するだろうが!

ブロマンスとかラベルをつけるまえに、考えてね。

さすがのアシモフ先生も、1920年生まれなので時代の影響はまぬがれない。

アシモフは「アメリカ人道主義協会」の会長や「サイコップ」という超常現象の科学的調査のための委員会の創立を手助けした、かなり合理的な考えかたをする人だった。

けれど、やっぱり時代が時代で周辺の環境が環境だから、女性が警察組織の中心人物として事件解決をはかる話を、そうやすやすとは書けなかったわけだよ。

なんたってこの話は、1953年に書かれているのだ。

だからさ、ホモソーシャルなにおいのする展開なのはある意味しかたがない。

だけど、それをさも美しげに「ブロマンス〜」とかって賛美しないでね。

「うむ、いまなら男社会のなかでふるい時代の男視点の展開の話だと考えるといいんだな」と頭のすみっこに小さいフセンを貼っておきながら読むのがいい。

未来に向かう分野の小説であっても、書かれたふるい時代の概念は残念ながら存在するわけで。

それはまえにも言ってるけどね。

SF作家といえども、なにもかも革新的な考えかたで話が書けるわけではない。

生まれ育ち暮らしている環境の影響は、ゼロではないのが現実。

「未来の話なのに、なんだよ、この設定」とか「未来の話のわりに、ふるい偏見があるわ〜」とか、読んでいると感じることが、さとうにはよくある。

話の成り立ちや展開を考えて意図的にそういうふるいものを活用しているのと、ついうっかり出てしまうのは、ちがいがあるので読んでいてわかってしまうものなのよ。

さとう

さとうはもう半世紀以上生きてる年寄りだからねぇ

SF作家は未来の話を書きたくて書く。

けれど話のなかがものすごい未来だったとしても、書いている本人は現在に生きているので、その影響はゼロにはできない。

そういうちぐはぐなものと闘いながら、それでも楽しいからSFを読んじゃう。

さとう

そんなことに気がつく自分、悪くな〜い、とか考えてるさ〜

ミステリ好きにもたのしく読める

さて、アシモフ先生は、大学で化学の勉強をし、成績優秀で大学院で博士号をとり、合間に戦争にかり出され、終戦後には大学の先生をやっていたが、その間ずーーーっと物書きもやっていた。

しかもSFばかりではなくて、ごくふつうにミステリを書いたり、純粋に科学の教科書を書いたりノンフィクションの科学解説書を書いたりしてる。

いやまず、エネルギッシュな人よね。

そんな作家が書いた話なので、舞台は未来で展開はミステリという、読んでいて2度たのしい話になっている。

しかもお約束のように、ロボットが出る〜。

なんたって現在にいたってもロボットの話を書こうとするものに影響を与えている「ロボット工学の三原則」というものすごいメソッドを作っちゃった人が、ロボットの話を書くわけなのでね。

それもロボットを主人公のとなりにおいてのミステリだからね。

ワクワクするじゃないの〜。

どんな風に巻き込まれるのよ〜。

新しいものへのアレルギーは大昔からあった

このブログでも以前にいったけど、人間は新しいものにたいして、すぐに飛びついてすんなり受け入れられる人ばかりじゃないから揉める。

新しいものにたいして、ちょっと慎重というかちょっと抵抗というか、アレルギーっぽい反応を返す人がいるんだね。

機械が活躍するようになった産業革命時代とか、AIが導入されるようになった現代とか、新しい能力を獲得した新人類が来ると思われている未来とか。

とにかく、いま現在を変えさせられる、脅かされると思う人は反発する。

この話は、まず宇宙人が出てくる、そして地球人の使っているのとは全然仕様がちがう宇宙人側のロボットが出てくる。

地球人が使っているロボットだって、仕事を奪われると思われて嫌われているところがあるのに、宇宙人の存在がさらに問題を複雑にするのよ。

だって宇宙人っていってるけど、もとは宇宙開拓のためにはるかむかしに宇宙へ出て行った地球人の成れの果て(っていうとイメージが悪くなるか)なんだ。

それが長い年月をへて、もとの地球人より優秀な進化をとげて地球を救うためにやってきた、らしい。

誰だってさ、上から目線には敏感になる。

能力がうえ、効率がよい、「新しいやり方」と主張される。そういうものに対するアレルギーが、この話でいうところの「懐古主義」へと逃げ道をつくる。

慣れた習慣や慣れたシステムのまま生活していくのは楽だもんね。

まあでも、そういうのはしかたがないけど、なにかがきっかけで人は変わるかもしれない、というオチもある。

ありふれているけど、それはそれで人間はちょっとずつでもまえに進めるんだっていう救いになるね。

さとうがこの本を読んだ理由

記事の最初でオビに書かれたブロマンスにイチャモンをつけてたけど、裏側には「宇宙最強のツンデレコンビシリーズ」と書かれていて、ロボットが出てくるってのにツンデレってナニよ?と思った。

そりゃ人間くさい反応をする優秀なロボットの話はごまんとあるけど、刑事のバディでロボットが出てくるのにツンデレかよ、と思っちゃって、こりゃ読まねば疑問は解決しないなと考えたの。

切れる刑事ではない主人公が、けっこうミスをしながらも真相にたどりつく過程と、ロボット嫌いなのにロボットとコンビを組んで事件を解決していく様子が、なんだか愛おしい感じすらしてくる。

ホント、ミステリ。でもちゃんと、SF。

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この記事を書いた人

昭和生まれ。なのでリアルな顔写真はご勘弁を。
オタクという言葉がなかったころからSFを読んでいます。
オタクのはしくれなので読んだ本を紹介します。

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