クローンは不完全なコピーらしい

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人類の叡智、いま一度検証しよう

この本は3篇の中編の話で成り立っている。

が、どれも連続して成り立つ話だ。

生殖技術が発達して、今や人間でさえクローンでき得る時代となったけど、こんな怖い記事は昔からあって、SFの世界でもさんざんディストピア・ストーリーができている。

外側の入れ物は複製できても、内側は完璧には複製できない。

それは人間の脳の働きのすべてが解明されてないから、仕方がないことだけど。

人間が積み重ねてきた歴史の中には優れた知恵もあるのだから、いま一度、私たちはそれを振り返って冷静に考えるのがいいんじゃないかな。

哀しく静かにすすむ未来の話です

鳥の歌いまは絶え 

第一部は、放射能汚染などで環境破壊が進み、人類が滅亡の危機に瀕している状況。

生き残ろうとするごく一部の一族の悪戦苦闘の中で、人としての感情や不安な日常を描く。

まるでクローンを生み出すことが唯一の生き残り方法だと決定的に考えて進んでいくが、生み出されたクローンたちは自分たちとはどこかが違っていた。

シェナンドア

第二部は、クローンたちの集落の話。

相変わらず放射能汚染は続いており、このクローンたちの集落が存在する「谷」だけが安全に居住できる。

にもかかわらず、物資の補給と世界情勢を知るために、5人の選抜メンバーが川をくだって探検に出かける。

クローンたちは強い共感能力で結びついて存在しているので、仲間と距離的に離れるのは精神的な苦痛だった。

その苦痛に耐えられる者だけがはじめて「孤独」を知る。

そしてその人間だけが「私」という、主体を考える。

静止点にて

第三部は、集落の中でただひとり、クローンの仲間を持たない少年を取り巻く話。

クローンにも限界があり、徐々に衰退していく傾向のクローン集落のあり方に、孤独ながら戦っていく。

少年は、「私」という主体を獲得し孤独に生きることに耐えられた人間の息子だった。

彼は普通に有性生殖(人間同士のセックス)で生まれた子供だったのだ。

半世紀近く前には指摘されていた危うさ

この話は1976年に書かれている。

イギリスでクローン羊・ドリーが誕生したのは1996年だから、すでにと言うかずいぶん前に危うさの指摘があったんだね。

ドリーが生まれた時、世間は大騒ぎしたけど、その時科学者たちは「6歳の羊の細胞をクローニングして生み出されたドリーは、生まれた時点ですでに6歳の細胞でできている」なんて言ってた。

ちなみに、ドリーは病気で早死にしてしまったけど、同じ細胞でクローニングされた羊たちは元気に長生きしてた。

この話では、妊娠可能な女性のお腹の中の胎児をクローニングする、ということになっている。

生まれた時は普通の赤ちゃんと変わらない、っていう設定。

何を言いたいかというとね、

  • まだ人間をクローニングできるほど社会は倫理や制度などのいろいろな分野を研究し尽くしてないよ
  • 人間の女性を「ヒトの繁殖要員」なんて考えてる社会では何もうまくはいかないだろうな

ってこと。

人間を、単なる生物の一種としか見なくなる社会は、やっぱりどこかで破綻するのよ。

クローニングがどれだけ危ういことなのか、この本はもう書いている。

何か災害でインフラに異常が出たら、クローニングする環境はダメになっちゃうかもしれない。

その時になって「女性の皆様、協力してください、人類のために」とか言われたってさ、きちんとした扱いをされてこなかった立場の者は協力なんてしないよ。

こんな人類なら滅びてしまえと考えてもおかしくない。

女性に「まともな人」と認知されてない男性は、深く考えたほうがいいかもしれない。

男性を規定しているy染色体は、そもそもx染色体から突然変異したのではないかという説もあったり、オーストラリアのグレーブス博士の説で「進化にともなってY染色体はどんどん短くなってきたから、この割合で短くなり続けるとしたら、今から1400万年後にはY染色体はなくなるだろう」なんて話も聞こえる。

まあ、そんなに簡単になくなったり変わったりはしないだろうけど、人間の社会が性によってカテゴライズされる部分があるのだとしたら、お互いに尊重しあうことをちゃんと考えておく方がいいよね。

ちなみにさとうがこの本を買った理由

このタイトル、素敵じゃない?「鳥の歌、いまは絶え」

原題はWhere Late the Sweet Birds Sang。

いやあ、どうしてこんなに素敵な翻訳ができるんでしょうね。

それと、帯に「ティプトリー、ル=グィンに並び称される」とか説明が載っていて、しかも絶版してしまったサンリオSF文庫からの復刊、となったら、これはもう読むしかないっ。

さとうはぼやぼやしていた期間もあったので、サンリオSF文庫をほとんど買ってないのよ。

でも巷では「サンリオSF文庫にはいい話がいっぱいあったのにね」って惜しむ声がけっこうあって、悔しい思いをしてた。

だから読むに決まってるのさ。買うに決まってるのさ。

まとめ:本の紹介

滅亡を前にして、人類のうちの恵まれたごく一部の一族が、財産を結集して科学力を持って生き延びようとする大河ドラマです。

それぞれの中編ごとにメインとする人物は変わりますが、ホモソーシャルなエリート主義が描かれていて、なんだかなあな話に思うかもね。

でも、もし歴史に転換点があるのだとしたら、それは今で、だから今これを読んで考えてみるのはいいチャンスかも。

さとう

さとう

「オタク」という言葉がない頃からSF小説を読んでいました。SF小説を読んだことない人と楽しさを分かち合いたいと思ってます。SF以外の本についても読む楽しさを分かち合いたいです。

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