教育を受けていない娼婦が最強のナノマシンを取り込んでしまう事故に見舞われた。
人生や社会はどうなっちゃうんだろう?
これはそんなはじまりかたをするけれど、新しいテクノロジーを使えれば人生は変わるという話だ。
【極微機械ボーア・メイカー】のあらすじ
男の死体を食べものに変換させようとして、フォージタはうっかり、死体から発射された針に刺される。社会の最下層で生きるフォージタにとってそこから生活が混迷に巻き込まれ、居場所を追われていった。
一方、研究名目でつくり出された人造人間のニッコーは残された命があと少しと知ってから、なんとか延命できないかと手を尽くす。時にはこのうえなく憎い愛人の連邦警察長官・カースティンと面会してまでも。
人工知能をつかったナノテクノロジーには厳しい制限が設けられていたが、それをおびやかすものが「ボーア・メイカーと呼ばれるナノテクだ。
だが誰かがそれを盗みだして連邦あげての大事件へと発展する。
連邦警察と「ボーア・メイカー」を盗んだもの、「ボーア・メイカー」を使っているフォージタ、この三者が追いつ追われつして決着をつけようともがくが……結局、「ボーア・メイカー」の恩恵を最終的に受け取るのは誰なの?それはいつ、受け取れるの?
先端技術のナノテクは希望だ
1980年代にナノテクは先端技術として脚光をあびはじめた。
インターネットが爆発的にひろがり、ITとかエレクトロニクスとかってことばがわんさかメディアにあふれ、シリコンヴァレーがベンチャー企業にとっての"聖地"と言われた。
21世紀になるころから、ナノテクはバイオの分野でもすごく伸びてきた。
今、めだっているのは医療とか化粧品とかの分野かな。
この技術がなかったら、快適で便利な生活はできない。
がんの治療とか、不妊治療とか、育毛技術とかにも応用されている。
なんだかんだで、すでに私たちの生活はナノテク・ナノマシンに支えられている。
ナノマシンって、SFでは分子科学レヴェルの自動機械って扱いだ。

ウィルスの機械版って感じかな
この技術はこれからも、希望をつむぐ。
もちろん、使いかたによっては危険も考えておかなきゃ。
娼婦といえば格差社会を連想しないか?
最古の職業といわれる娼婦だけど、この言葉によいイメージはない。
物語によってはいい立ち位置におかれる時もあるけど、たいていは格差社会の下層にいる。
この本でも、主人公のフォージタは塵界にすむ娼婦。
日々の、食べることだけで精一杯な暮らしの中で思いもかけずナノマシンに侵入される。
軌道都市(天界かな)や地上でもきちんとした社会に所属している人々には単なる技術であるナノマシン「メイカー」の影響に過ぎない。
でもフォージタのいる塵界では魔法としか呼べないような、わけのわからないチカラに見える。
フォージタの理解では「悪い魔法にかかった」っていう悲劇なわけ。


これは格差社会における教育の差だね。
フォージタは、ナノマシンの影響を受けてどんどん変わっていく。
だけど、チカラは使えてもそれを私利私欲のために利用しようというふうにはならない。
目の前にある危機を回避しようとはしても、もうけるために使おうとか考えないんだ。


話の中にはいろんな立場の人間が出てくるけど、究極のナノマシンを手に入れても本質が変わらないのは、フォージタだけ。女神だよ。
さとうがこの本を読んだ理由
1998年、SF小説の世界で「ナガタ」なんて日系の名前の作家を見たことがなかったので、飛びついた。
ページをめくって見たら、なんだか魔法っぽい展開になりそうだなと思ってしまった。
そうなったら読むしかない。
ナノテクのディテールをこまかくは書いてないけど、ナノマシンを作動させることの恩恵と危険がよくわかる。
そしてそのことをどう扱ったらいいのか見解をたたかわせる人間たちの、欲望ゆえの攻防がおもしろい。
新しい話じゃないけど好き。希望の明るさが感じられるからね。
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