「作品の発想にはごくわずかな意味しかない」と著者はあとがきで語る。
アイデアが勝負!……じゃないんかいっ!
でもそんなことを書いているこの本のおもしろいところは、やはり独創的なアイデアではじまる数々のストーリーなワケで。
【無伴奏ソナタ】のあらすじ
銀ピカの男たち
旧版では「ブリキ細工の偶像」
もくじのまえにある短い詩。
正しく読みとくのはむつかしいが、著者の、SF作家としてのぞむ立ち位置みたいなものかと思ってる。
ただ、旧版の訳は文語体っぽく、新訳は口語体っぽい。
旧訳のほうがさとうにはわかりやすかった
はじめに ───作者への公開書簡───
著者を見いだしデビューさせた編集者からの作家へのエール。
こんなものが作品集に載るなんて、ほのぼのとした時代だったねぇ
このなかで編集者は評論家もどきにこんなことを書いている。
「彼らは本物の感情におびえ、自分たちが子供のころに読んだ、男根型宇宙船で世界を征服するステンレス製ヒーローの物語の焼きなおし以上に努力を要するものを頑として読もうとしない」
いまのSFはテーマも表現もストーリーも多岐にわたるけど、SFでさえこんな時代があった。
SF以外の現実では、この状況は改善されてないよ
エンダーのゲーム
10代になったばかりの天才指揮官が、戦争ゲームを命がけで展開する話。
この短編を読んだとき「アイデア勝負!」「むしろ長編は冗長」とか思った。
でも長編になったものを読んだらさらにくわしく心情など書かれていて、おもしろかった。
王の食肉
村の中にただ一人、五体満足な羊飼いがいる。彼は村人を死なせないために、宇宙から降りてきた王の食肉の供給に従事した。
だが22年ののち、遠い惑星の精鋭4人がアビイ入植地を救いにきた。
王は自害し村人は解放される。
そして帝国の司法制度に則って、裁判が開廷された。
この話はやさしい残酷さについて語ってるね
深呼吸
デイルは気まぐれに、妻と息子の息づかいがぴたりと一致していることに気づいた。ふたりは事故で亡くなった。
飛行機に乗ろうとして、ゲートの待合所にいる人の半分が同時に呼吸していることに気づいた。飛行機は墜落し半数の乗客が死亡した。
呼吸の一致が死の前触れだと気がついたデイルは他人の息づかいばかりが気になるようになる。
やがて事件が起き、精神科医に異常を指摘されたデイルは入院するが……
タイムリッド
パーティに参加しているものたちは家庭用(つまり個人用)タイムマシンで、生きたまま体験するのは絶対に不可能なことを、過去の時間の内で体験しようとしていた。
交通事故で死んでみる体験だ。
だが時間部隊監視チームから、過去に干渉した疑いで警察官が逮捕しにくる。
さまざまな主張をくりかえし逮捕を逃れた主人公だったが……
自分のせいでもないのに短時間のうちに何度も何度も怖い思いをくりかえす羽目になって、運転手が気の毒としか言いようがない。
怖い思いがイヤなさとうは、この運転手に同情するわ
ブルーな遺伝子を身につけて
植民星からやってきた4人の宇宙飛行士は、曽曽曽曽祖父たちが800年まえに脱出した地球に降り立った。
細菌戦争で汚染され、ついに現在エンドウ豆のスープに埋もれたようなその星には、人類の進化形が生きて文明を維持していた。
アメリカ第一主義のその原住民たちは、ロシアからの攻撃を防ぎ生き延びるために独自の科学を発達させる。
うっかり吐いた言葉から祖先がロシア人かと疑われた4人が拘束されたとき、奇襲攻撃のような衝撃に襲われる。
そのとき微生物開発の最終結果があきらかになった。
人間や地球の進化がいろいろなルートをたどった挙句、①想像もつかないカタチに変わっていき、その結末は千差万別、②想像もつかないカタチに変わっていきながら、結局ひとつの結末にたどりつく、の二択だとしたら、君はどっちがいい?
四階共同トイレの悪夢
妻に家から放り出されたハワードは安アパートに住んでいる。
ハワードは他人を居心地のわるい気分にして操作し自分のおもいどおりの人生を歩いてきた。
ある日トイレから音がしてのぞいてみるとヒレのついた赤ん坊のような生き物が溺れている。
妻に「おぞましい怪物」呼ばわりされたハワードは、それを否定するつもりでトイレの生き物を助けようとしたが。
その生き物に襲われそうになるたびに、ハワードは思い出したくないことを思い出さざるをえなくなる。
これはハラスメントの権化だな
読み終わって思うのは、こんな人でなしなヤツらはもれなくこういう風に追い込まれたらいいよってこと。カァッ!
死すべき神々
遠い宇宙からきたエイリアンとのコンタクトは平和的で、彼らは特定の建物を建てる許可を求めた。それらはどう見ても宗教施設。ただ、礼拝のための誘いかけはない。
ある日、平和に暮らしていた年老いた男がエイリアンの神殿にふらりと出向き、エイリアンと話をする。
エイリアンたちはこの星に人間を崇拝するためにやってきた、という。
はたしてその真意は?
古来、人間の(とくに権力者の)願望は不老不死。でも本当に不老不死になったら、人間は本当にその状況に耐えられるのか。
神というのは、どんな立場の人をいうのか。
異星人たちは冷静だよ
解放の時
年間売上数百万ドルの会社を運営するマークは、仕事中に一瞬闇に落ち、無の中を果てしなく落ち、そして世界が戻ってきた。
だが帰宅すればさまざまに過去の記憶がいりみだれて混乱し、書斎には誰のものかもわからない棺桶が置いてあるのを目撃する。
いったいどういうことだろう?
別の記事にも書いたけど、自分の記憶は確かに自分の味方なんだろうか?
亡くなるまえに走馬灯のように人生のアレコレを思い出すとかいわれるけど、まるでパラレルワールドのすべてがごっちゃになったような話だ。
解放って、なにから?え?
アグネスとヘクトルたちの物語
旧版でのタイトルは「猿たちはすべてが冗談なんだと思い込んでいた」
原題が The Monkeys Thought "Twas All in Fun"
でも新しいタイトルのほうが話の内容が一発でわかる。
実際にあったビアフラ戦争を下敷きに、アグネスと宇宙に存在するヘクトルたちが出会い、時間をかけて混在していく話。
「Science」と同時に「Speculative(思弁的)」が色濃い感じがする。
思弁的って、経験にはよらず、思考や論理にのみ基づいている様子なの
……と以前は書いたのだが、新訳で読むとたしかにScience Fictionだった。
個人的にはヘクトルの3と4の話がわかりやすかった。《大衆》の話、《支配者》の話。巻き込まれたシリルは不運で気の毒でしかない。
磁器のサラマンダー
呪いや祝福や魔法が力を発揮する〈麗しの地〉に住んでいたキーレンは、父親が不用意に吐いた呪いの言葉により苦悩の日々を過ごしていた。
しかし旅先で父親が手にいれた磁器のサラマンダーのおかげで、すこしずつ不幸が解消される。
最終的にキーレンの治療が完了するために必要なことは。
呪いや祝福や魔法が力を発揮する地に暮らしていたら、やたらめったなことを思いを込めて叫んではいけない。
そして自分に都合よく問題を解決してくれる手段が降って湧いてくると考えてはいけない。
これはそういうおとぎ話
無伴奏ソナタ
幼少の時から音楽に対する天才性を持っていたクリスチャンは、唯一無二のものを創造する〈メイカー〉として隔離されながら大切に育てられた。
あるとき、違法性を知りながら近づいてきた男に手渡されたレコーダーをこっそり聞いてしまったクリスチャンは、犯罪を犯した罪で音楽を作り出すことを禁じられる。
だが再教育を受けたのちに知ったバーで我慢できずにピアノを弾いてしまったクリスチャンは、またしても罰を受ける。
完全で平和で幸福な社会で法律を破るということは、社会に適応不能な犯罪者になるということ。
クリスチャンはどのようにして生きていくのか。
天才が犯罪者になってしまうのは、なんと悲しいことだろう。
罰を受けてはじめて「飢え」に気づく。
さとうがこの本を読んだ理由
それはね、タイトルだよ。
無伴奏、なのにソナタだよ?
なんじゃい?って思う。
しかも天才が禁を破る話だ、読むしかない。
だって天才の話はみんな好きなのよ。
さとうの持っている1985年発行・1991年第2刷のふるい本には、著者本人のあとがきが付いている。
著者は「作品の発想にはほんのわずかな意味しかない」とかあとがきで書いてる。
そこで著者は(おそらくデビュー後数年の、初期作品集なので)作品たちがどういう経緯で生まれてきたかを、ちょろっと告白している。
小説家が創作の、書き方というか発想を教えてくれるって、小説家になりたい新人さんにとっては興味シンシンだよね。
でも著者はあとがきの締めに「なかんずく最も重要なのは、ストーリーの終り方だ」と書いてるわけなの。
小説家っておもしろい。
やはりね、さとうが読んでた本は古いので、読んだ感想としては若干古くさい(表現がだよ、ストーリーは良い)
新刊が出てるものは新刊を読まねば、だね。
追記:新訳版を読んだ
新しい翻訳で読んだ。なので記事も手直しした。
まえにも書いたけど、ふるいSF小説は新しい訳で再販してほしい。
マンガやアニメでSFを楽しむ土台ができあがっているので、SF小説も読んでもらえる。
理解しやすい訳で提供してください。
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